文化財×BIMにおけるデータ貸出のセキュリティ設計
― SMC/IFCの使い分けと情報統制レベルの整理 ―
はじめに
文化財施設のBIMデータは、一般建築とは異なり
**「文化財情報そのもの」**を含むため、取り扱いには高度な管理が求められます。
特に施工会社や外部業者へデータを貸し出す場合、
- IFCを渡すのか
- SMCに制限するのか
この判断は単なる形式選定ではなく、
セキュリティレベル設計そのものです。
本記事では、文化財施設管理者向けに
SMC/IFC貸出の実務設計を整理します。
※ IFC(Industry Foundation Classes):異なるBIMソフト間で建物情報を共有するための国際標準フォーマット(編集・再利用可能)
※ SMC(Solibri Model Checker):Solibriで使用されるBIMモデルの閲覧・検証用ファイル形式(編集不可・軽量共有向け)
■ 基本原則:データは「3階層」で管理する
文化財BIMは以下の3レベルで整理します。
Level 1|完全データ(内部専用)
- IFC(フル)
- Revit / Archicadネイティブ
👉 管理者・設計者のみ
Level 2|制御共有データ(外部貸出)
- IFC(制限版)
- SMC
👉 施工会社・専門業者
Level 3|閲覧専用
- SMC(軽量)
- PDF / 画像
👉 一般関係者
■ SMCとIFCの本質的な違い
Solibri Model Checker を前提に整理
| 項目 | IFC | SMC |
|---|---|---|
| BIM再構築 | 可能 | 不可 |
| 編集 | 可能 | 不可 |
| 情報量 | フル | 制限可 |
| セキュリティ | 低 | 中〜高 |
👉 IFCは「設計データ」
👉 SMCは「閲覧・検証データ」
■ セキュリティレベル設計(実務)
Level A|低リスク(公開に近い)
用途
- 一般施工説明
- 概要共有
提供データ
- SMC(軽量)
- 属性削除済み
制御内容
- 詳細寸法削除
- 材料情報削除
- 履歴削除
👉 形状のみ共有
Level B|中リスク(通常施工)
用途
- 施工計画
- 干渉チェック
提供データ
- SMC(詳細版)
- IFC(制限版)
制御内容
- 必要部位のみ抽出(Zone / 分割)
- 重要属性マスク
- GUID維持(追跡用)
👉 施工に必要な最小限の情報
Level C|高リスク(専門施工)
用途
- 修理・保存工事
- 部材交換
提供データ
- IFC(詳細版)
制御内容
- NDA必須
- 使用範囲契約
- 再配布禁止
👉 例:大谷石・テラコッタ修復
■ IFC貸出時の制御ポイント(重要)
① モデル分割
- 全体モデル禁止
- 部位単位で分割
👉 例:外壁のみ/屋根のみ
② 属性制御
削除対象:
- 修理履歴
- 劣化情報
- 内部識別ID
👉 文化財価値情報は絶対に外に出さない
③ IFCクラス制御
- Proxyの整理
- Casework統一(装飾部材)
👉 不要な意味情報を削減
■ SMC貸出時の制御ポイント
① 表示制御
- 分類で表示ON/OFF
- 部位限定ビュー
② 情報制御
- プロパティ削除
- カスタム情報非表示
③ Issue管理
- コメント共有は可
- 履歴は制御
■ 実務で最も重要な判断
「IFCを出すかどうか」
これは技術判断ではなく、
👉 契約+リスク判断
IFCを出してよい条件
- 契約済(NDA)
- 再配布禁止
- 目的限定
IFCを出してはいけないケース
- 一般施工
- 入札段階
- 不特定業者
👉 この場合はSMCのみ
■ 推奨フロー(文化財BIM)
- 内部でIFC管理
- Solibriで検証・調整
- SMC生成
- 必要に応じてIFC制限版作成
- レベル別に貸出
■ 結論
文化財BIMの貸出は
👉 ファイル形式の問題ではなく、情報公開レベルの設計
- IFC=危険だが必要
- SMC=安全だが万能ではない
最適解は:
👉 「SMCを基本、IFCは限定許可」

